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2020.09.02

『笹の船で海をわたる』


学童疎開を経験したというから昭和10年前後生まれだろうか。その世代の、ごく普通の主婦の老後の回顧を描く。

常に受け身で、自分の意思を出すことなく流されるままに生きることがこの世代の特徴なのだろうか。こういう普通の女性と、自分で世界を切り開いていく新しい時代の女性を対比させ、自分自身のあり方に疑問を持つという構図。『対岸の彼女』と似た関係か。

戦後すぐの頃から老後まで、昭和の世相を交えてだらだらと回顧が語られる。これだけだらだらした文章は角田光代に相応しくなく、恐らく主人公の流される生き方の表現として意図的に作ったものだろう。この文章の読み辛さは、主人公の生き辛さの表現でもあると。

喉の奥に刺さった棘を気にしながらも抗うことなく生きてきて、老後にふと悟る。ここでの行動が主人公にとっていい選択だったか悪い選択だったかはわからないが、自分で考え自分の責任で行動することの価値を角田光代が描いて集結する。読みながら、この小説はどこに向かっているんだろう?と心配になったが、ちゃんとこの作者らしい終結で安心した。

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