カテゴリー「書評」の466件の記事

2018.04.18

『大格差 - 機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』


先日『AI vs 教科書が読めない子どもたち』を読んだ時に、長いあいだ積ん読棚に置きっぱなしのこの本のことが気になりました。2014年9月18日初版、2014年12月8日初版第4刷とあり、かなり3年半近くも積ん読放置されていた様子で、本に申し訳ない感じ。

案の定というか、本書の内容はAIが万能ではないが、高度教育のない層の雇用は脅かされるという、AI vs と同じ論調でした。

AI vs がAIに入試問題を解かせようというアプローチからの論述に対し、本書はコンピュータの読み手をを活用したチェス競技(フリースタイルチェス)からのアプローチというかなり違ったところからスタートして、よく似た結論に到るところが面白い。AIが実用化するにしたがって、人間がどのような能力を身につけなければいけないか、凡そ示されたということでいいのか。

本書後半では、「中国との熾烈なライバル関係に刺激されて、アメリカ人のナショナリズムが強まり、秩序と現状維持が重んじられるようになる」「アメリカでいま保守主義の力が最も強いのは、所得水準と教育水準が最も低く、ブルーカラー労働者の割合が最も多く、経済状況が厳しい地域だ」と、のちのトランプ現象を的確に言い当てていることに驚いた。もしかしたらアメリカではリーマンショックあたりから強烈なナショナリズムは台頭しつつあり、僕がそれに気付いたのがトランプ現象からでしかないのかもしれないが。

| | コメント (0)

2018.04.14

『ストリップの帝王』

ストリップ劇場の支配人をしつつ踊り子のマネジメントをしていた男の半生記。

ストリップは性風俗であり、踊り子は明らかに性の対象。しかも「まな板」「個室」という売春行為があり、劇場管理や踊り子のマネジメントは管理売春に該当する、人身売買業に近い仕事。明らかにカタギの仕事ではない。

この本で追っている瀧口は、戦後のストリップの隆盛から衰退まで、長い間にわたり業界の主人公であったようだ。自らの逮捕勾留までもきちんと管理しているように思える。ここまでストイックに生きないと、欲望が渦巻く性風俗で信頼を得て成功することはできないのだろう。

己に対する自信の強さが滲み出る生き様。それ故に、引退して田舎に引っ込んでからの貧しい生活が重い。月収1億を稼ぐ世界で、いったい誰が幸福になったのかと。

| | コメント (1)

2018.04.04

すごい立地戦略

別にすごくはなかった。

店舗を出店するにあたっての立地選択の重要性と、どういう立地が集客に有利かを説明した本。タイトルに「すごい」とあるので奇をてらった秘策でも書いてあるのかと思ったら、立地選択の基本が易しく書かれている本でした。

当たり前と言えば当たり前なことしか書かれていません。しかし、個人で出店計画を立てる時などは基本に忠実にあるべきでもあり、こういう基本をキチンと説明している本は押さえとかないとなとは思います。

この本の中で「すごい」と思ったのが、セブンイレブンの出店戦略ですね。ふつう店を出す時は「空き物件」を探すのでしょうが、セブンの場合は空いていようが使ってようが、出店したいところにピンポイントで用地確保に動くのですね。ここまでやってこその他の追随を許さない店舗日販なのでしょう。妥協を許さないことで取れる数字なのです。

| | コメント (0)

2018.03.30

『RPAの威力』

なんだか流行している「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)の三文字。バズワードっぽい雰囲気もしますが、ミニマムに業務効率を向上させるにはいいツールなのかもしれないとも思いつつ、本書をダウンロードしました。

本書はシステム導入コンサルティング会社が書いたもので、基本的にRPAツール導入支援サービスの紹介といったものに感じます。無料で配布したらいいのにって思うくらい。(見込客にはきっと無料で配りまくっているに違いないと思いません?)

RPAは各現場のPC業務の自動化なので
(1) ユーザ部門がロボットを各々作りこむ
(2) 情報システム部がロボットを設計し現場に適用する
の2通りの導入アプローチがあります。これが曲者で、(1)だと野良ロボットが大量に出没して手に負えなくなる、(2)だと結局のところウォーターフォール的な手続きが発生し稼動までに時間がかかり、変更の柔軟性も失われます。これって、EUC(エンド・ユーザー・コンピューティング…業務で謎マクロが動いていたりしませんか?)の是非を議論していたときと同じ構図ですね。そう、結局RPAってアプリ跨ぎのEUCなんじゃないの?って思ってしまいました。

本書では情報システム部や現場部門の理解と「素晴らしい」スキルによってこんなに立派な成果が出ました!と好事例をさらによく脚色して書かれているように思うのですが、事例に挙げられたロボットたちが導入時の担当者が出て行ってしまった後にどのように動くのか、気になるところです。

| | コメント (0)

2018.03.21

『AI vs 教科書が読めない子どもたち』

『AI vs 教科書が読めない子どもたち』
AIブームの中、AIとはあまり関係のないように思える「教科書を読めない子どもたち」という言葉が新聞広告に掲載されていて、気になりました。

この新聞広告には、こんな例題が載っていました。

次の文を読みなさい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性のAlexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は(    )である。
①Alex  ②Alexander ③男性 ④女性

この文章、比較的論理的に複雑にできており、穴埋め設問が本文に対し不自然ではあります(論理の順序が、本文と設問で逆向けに作ってある)が、解答としては明確に一つしかありません。本書によれば「係り受け」の問題だそうで、AIで解ける種の問題だそうです。この問題の正答率が、中学生の3分の1、高校生の半分しか正答できないということです。(ちなみに、広告を家族に見せたところ、小6の息子は難なく解けましたが、妻は誤答し、正解を言ってもなぜだかをすぐに理解できませんでした。おそらく、小6向け文章読解ドリルと同等の難易度と思われます。)

この広告が気になり続けていたので、本書を読むことに。

本書の前半は、数学者の視点でAIのシンギュラリティは来ないと断言することに割かれています。講演会でシンギュラリティの到達についての質問が多く辟易していることまで書かれています。まあ、マスコミはAIが人間を乗っ取るシンギュラリティがすぐそこまで迫っていると囃し立てているので、自らAIを研究する人でもなければそう思って当然でしょう。質問者が悪いわけではありません。一部のAI専門家はそう煽ることをメシのタネにしていることも事実でしょう。ただ、本書では、数学者の視点から、AIには何ができて何ができないのかを解説しています。本書いわく、コンピュータでできることは計算だけで、計算でできないことはコンピュータでできないのです。そもそも著者は「AIはまだ存在しない」とまで言い切っています。AIの定義にもよりますけど。他の視点からの解釈を見ないままこれを受け入れるのも危険ですが、かなりわかりやすく書かれているかと感じます。蒸気機関や内燃機関が発明されても、人間の営みの全てを代替できたわけではないことと同じような気がします。

そして、後半は、(世間一般が日本の代表的なAIだと思っている)東大ロボくん(コンピュータに入試を解かせ、東大合格レベルまでもっていこうというプロジェクト)の研究によって得た知見から、日本の中高生の読解力を調査した結果についてです。本ブログ冒頭の「Alex問題」も、その考察に用いられた素材です。

自然言語を解釈するのに必要なスキルを、本書では次の6つに分類しています。
・係り受け解析
・照応解決
 ↑ここまではAIで精度よく解釈できるが、↓これ以降はAIで未解決
・同義文判定
・推論
・イメージ同定
・具体例同定
この分類において、日本の中高生や大学生にリーディングスキルテストを行ったというものです。

本書に示されている結果は、衝撃的でした。正直、日本人の多くが、こんな文章すら解釈できないのかという驚きです。しかも、問題文の出展が中高生用の教科書や、中高生向けのニュース記事だというのです。当然、これらは中高生が理解してくれることを目的として書かれていているもので、本書いわく、これらの文章を理解できないと不利を被るものであるものです。示されているのは、AIですら解釈できることを解釈できない人間が相当数いるという事実です。正直言って、現在の職場でも、文章を理解できない従業員に対し物事を理解してもらわなければいけないケースが多く、苦労することがあります。本書を読んで、腑に落ちてしまった部分がありますね。理解できない人が稀ではなく、大きな割合でいるのです。推論スキルを要求しない文章を作らなけらばいけないとなると気が重いし、複雑なビジネス環境を示す文章でそんな工夫は困難です。

著者はAIが実用化した近未来の社会を想像し「企業は人不足で頭を抱えているのに、社会には失業者が溢れている」という状態を描いていますが、これは現代でも発生している事実があります。論理が入り組んでいる事象を理解出来る人間が少なく、報告を求めても理論的な文章で回答できない人間が多いことは実生活で思い知っています。著者が恐れている近未来は、現場ではもう始まっています。しばらく前までは、こんなことを感じることはありませんでした。それは著者が中教審を批判して「自分の半径5メートル以内にいる優秀な人たちの印象に基づいて絵を描いている」と表現していることと同じだと思います。ビジネスとしては「イノベーションに代替可能なタイプの人の労働価値が急激に下が」るに従いAIに代替する(か労働の対価を相応に減らす)選択をしなければいけないのですが、その前に社会として行うべきことは何かがわからないままというのがもどかしいです。

本書内容とは無関係ですが、Kindleで読んでると所々に無意味な改行が入っています。電子化する作業でしくじっているのかなぁ。

| | コメント (0)

2018.03.18

『発達障害は最強の武器である』

なぜか突然、有名人の「俺たぶん発達障害」アピール。最近、発達障害が流行ですし。『他人を攻撃せずにはいられない人』で発達障害を徹底的に排除しようとしていた時代とは隔世の感です。

しかし、ネットで発達障害の特徴を調べてみると、あるある的なことばかりで、素直にネットで診断すると発達障害の可能性が高いと言われるのは大抵の人が当てはまるのでは?と思います。特にIT系で働いている人間なんて、いわゆるマトモなんていないだろとか思います。そんな素人診断でわぞわざ本を出さなくってもって思うんですが、精神科医(と言っても和田秀樹や香山リカですが)が肯定しているんだから、そんなものか。

一昔前は、異端児こそが世界を切り拓くような感じだったのですが、昨今は社会に適応できず困ってる人も、トンがって成功を収める人も、同じカテゴリーなんですね。これじゃ本当に困ってる人に救いが差し伸べられないような気がします。


| | コメント (0)

2018.03.17

『なぜアマゾンは今日中にモノが届くのか』

アマゾンの物流戦略の本。…と思って読み始めたのですが、あまり具体的なことは書いてないですね。

アマゾンは徹底的にお客様のことを考えて戦略的に物流に投資しています。ってのが延々と書いてある。顧客満足のために資金と知恵をふんだんに使ってますよという、アマゾンのアピールなわけで。

ただ、この本を読んでわかるのは、アマゾンは正解だけを選んで成長してきたのではなく、試行錯誤し、失敗を積み重ねて今の成功があるんだということ。(この部分は本書ではそんなに強調していませんが。) いずれにせよ、大胆な投資と、意味のある失敗によって現在の成功があるんだと思いました。

| | コメント (0)

2018.02.19

『グレイテスト・ショーマン』



昨年のラ・ラ・ランド、SINGなどミュージカル映画の頻度が高くなってる気がしますが、今度は『グレイテスト・ショーマン』です。

上流階級出身の妻を娶りつつも会社の倒産で失業した男・バーナムが興行で一山当てるという物語。人生の浮き沈みを歌に乗せて語るので、貧乏に悲壮感はありませんが、バーナムは夢を追う男。後に妻に、あなたは誰も愛していない、ショーしか愛していないと言われてしまうほど、高リスクな興行事業にのめり込む。

そして浮き沈みの激しいストーリー展開。状況が大きく転換する要所では、ダンスと歌。初めから終わりまで高揚しっぱなしで鑑賞できた、エンタテインメントとして傑作ではないでしょうか。

ここでやはり出てくるアメリカの差別意識の話。物語冒頭では上流階級と労働者階級の壁を描き、サーカス団を結成する過程では奇形とも言える団員を集め世間の批判を招くのですが、ここでの障害者差別や黒人差別も19世紀初頭の米東海岸や現代のアメリカでどのように認識されているのかの肌感覚がなく、映画の見方が難しいです。(例えばズートピアを児童映画として受け入れている土壌が難しい。)

最終的には、家族への回帰、仲間の結束、再出発と、底から登っていく方向感で終わり、エンドロールも劇中の音楽で余韻に浸らせる。観後感もなかなかでした。


| | コメント (0)

2018.02.12

『デトロイト』


51年前のでデトロイト騒動の中の事件のひとつ、アルジェ・モーテル事件を描いた映画です。この事件が遠因で引き起こされた2013年のデトロイト市破産や、この事件と類似の構図である2014年のファーガソン事件は知っていても、51年前のデトロイト暴動は映画を観て初めて知りました。参考:Wikipedia

本作品で描きたいのは、きっと、たった50年前には深刻な黒人差別と対立が存在していたという事実ではないでしょうか。オープニングのナレーションは、奴隷貿易から南北戦争まで、寓話的で痛々しい絵本のような解説で黒人の近現代における立場を解説し、デトロイト騒動の描写に入ります。

この映画のストーリーで鍵になるのが、クラウスという白人刑事。無許可発砲事件を起こしながらも、アルジェ・モーテルでは現場の指揮を執ることになる脚本です。クラウスそのものが実在した刑事なのか否かわかりませんが、こういう悪い印象を持たせる白人刑事をキーにするのは、数日前に観たスリー・ビルボードのディクソン警官と同じ構図かも知れない。(両者とも強い人種差別主義者として描かれています。)

黒人と一緒にいたチャラい白人女性を、白人警察官がどう見たか。これについても、脚本を作る側もかなり悩んだのではないでしょうか。売春婦なのか観光客なのか、劇中でも曖昧にすることで、より観客に考えさせられる状況を作っています。白人女性が黒人男性に体を売ることが、白人に対する侮辱とも捉えられているのかもしれませんし、侮辱と捉えての白人警察官の行動として描いているのかも知れません。

この映画が、黒人差別への怒りを描こうと意図しているのは流れでわかりますが、僕が気になったのはクラウス刑事のモーテルでの現場オペレーションです。結果として、彼の確認不足や警官への指揮についてのコミュニケーション不足で事態が悪化し無駄な死者が生じるわけですが、この指揮ミスについての描写が劇中ではありません。マネジメントのミスにより犠牲が生じているのにも関わらず、彼の人種差別主義を断罪しようという意図に見えてなりません。

事件の真相がわからないまま、でも社会に問題と提起したくて脚本を書いたのだと思いますが、アメリカの黒人差別の実態がわからないまま見るのは難しいです。

| | コメント (0)

2018.02.06

『スリー・ビルボード』


娘を強姦殺人された母親が、警察の捜査が進まないことに苛立って街はずれの道端に「RAPED WHILE DYING」「AND STILL NO ARRESTS?」「HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?」という過激な広告看板を掲出することから起こるドラマ。昨今の日本の報道のような怠慢な警察対住民の構図なら看板は警察叩きの格好のアイテムといて動くのでしょうが、作中では住民に慕われている警察署長に喧嘩を売った母親という構図になり、主人公は村じゅうを敵に回すことになります。

そして、母親の怒り、上司や組織を馬鹿にされた警察官などいろんな怒りがぶつかり合い、増幅し、手に負えなくなってきます。作中「Anger begets anger」というセリフがありましたが、まさにそう。この静かな過熱具合と突然の暴力が見もの。冷静を装いながら憎悪の念を撒き散らすマクドーマンドは頼もしい演技ながら不気味にすら感じます。

ミズーリ州という場所が全米(特に東海岸や西海岸地方)からどのように見られているのかが分かると、もう少し作品を理解できるのではないか。黒人差別の捉え方など、ミズーリ州ってこういうものだよねという共通認識を持った観客を想定しているのでは?

| | コメント (0)

より以前の記事一覧