カテゴリー「書評」の424件の記事

2017.06.11

『あの会社はこうして潰れた』

信用調査会社の帝国データバンクのベテラン記者がまとめた、近年の企業倒産を類型別に集めて整理したもの。

過剰投資、営業不振など倒産事由はいろいろありますが、最近のトレンドは粉飾決算ではないでしょうか。本書でも、いくつかの事例が挙げられています。

気になるのが、じゃあ粉飾しなかったら倒産しなかったのだろうか?ということ。粉飾しなかったら問題なく経営継続できていた会社は少ないのではないだろうか?という疑問を持ってしまいました。実際には、粉飾により(ほんのちょっと)延命していた会社が多いのではと思ってしまいます。ただ、小さなキズだったものが、粉飾によりとんでもなく大きな致命傷になり、経営者は経営責任だけでなく刑事責任まで取らされるようになるというのはありますが。

いろんな倒産事例を見てて感じるのは、キチンと身の丈を知ることがいかに大事かということ。起業して回り始めれば経営者は成功体験で自信が付きますが、ここで勘違いせずに堅実な成長を目指すことが大事なのでしょう。

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2017.06.03

『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』


将棋ソフト「ポナンザ」開発者の山本一成による、将棋ソフト開発の考え方を平易に解説した本です。

評価値のパラメータ調整が人の手によるものから機械学習によるものに変わってきた変遷、チェス・将棋・囲碁のコンピュータ思考の各々の壁、囲碁におけるディープラーニングによるAIの適用など、開発者の視点ならではの説明が、なるほどと思わせる。AIについてはここ最近たくさんの解説本が出ていますが、学者によるそれらの本に加えて本書を読むことで、AI台頭の時代を立体的に捉えることができると思います。

「黒魔術」の記述が特に興味深かった。何であれいい結果が出るんだから適用しとこうという考え。理屈が伴わず結果が出るものに対し拒否反応を示す人も多いと思います。将棋ソフトの世界はそうでなく「黒魔術」をどんどん採用していくコミュニティが成り立ってるんですね。

将棋や囲碁という盤上だけの世界(いわゆるサンドボックス)だけでAIを動かしている著者でも、AIの暴走をかなり気にしている様子が後半の文章からうかがえます。人間をゴリラと誤認識したり悪意のあるツイートを垂れ流すAIが少し前に話題になりましたが、将棋や囲碁は盤上にしか影響が及ばないので、かなり「安全」なAI適用なはずです。なのに暴走が気になるというのは、裏返すとAIの活躍の可能性が相当に大きいと著者は考えているんだと思います。

急激に伸張するAI。そういう時代の目撃者に我々はなっているのかもしれません。

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2017.05.30

『求道心』



神武以来の天才と言われ中学生の頃から70歳くらいまでトップ棋士として君臨した「ひふみん」加藤一二三九段の随筆です。

最近になって将棋ファンになった僕などから見たら単なるカワイイおじいちゃんですが、昔からの将棋ファンにとっては神様のような存在のはずです。

60年以上も棋界にいることで、様々なことを見てきたんだなと、本書を読んで感じます。将棋を愛し、将棋に没頭して送る人生、ステキだなと。

文章のあちこちで、加藤九段は随分と自信家だなあと感じるところがあります。この自信家の部分に実力が追いついているから怖いんですけど。

加藤一二三九段は昨年度にC級2組から降級し、引退が決定してしまいました。引退してなお、将棋界に常に新しい風を吹き込んでくれる大棋士です。今後はより自由な立場で活躍してくださることを期待しています。

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2017.05.28

『サピエンス全史』

人間が現在暮らしているこの世界はどのような経緯をたどって成り立っているか、そしてその中途にあった人間や現在の人間は幸福なのか。未来に訪れるであろう人間像は、倫理的にどうなのか。そういうことを疑問提起した書籍です。

日本で出版されて半年すこし経ち、出版時から徐々に書評などで評価が高まっていた本。いろんなところでそれだけ言われてるんだから読んどかなきゃなと思いつつ時間が経ち、ようやく読みました。なんだか『銃・病原菌・鉄』と対比されて表されることが多く、そういう文化論なのかなと思い読み始めたのですが、そうではなかったです。

なぜ数ある動物種の中で、しかもいくつかあった人類の中で、ホモ・サピエンスだけがこれだけ他者を寄せ付けない地位を築いたか。それを、本書では認知革命にあると説きます。現生人類のみが「想像」を行うことができる能力があると。その想像ゆえに、近接した他者だけでなく、もっと広い範囲の人間と協力体制を築けると。

そうやって狩猟採集生活に力を発揮するホモ・サピエンスの勢力範囲が広がり、そうして迎える農業革命。そこで、生産量は伸び、人口は増え、仕事は増えた。このことが、人類を幸福にしたか?が、本書の最大の疑問提起。定量的に測定すれば、幼児死亡率は減り、富の蓄積も可能となり、「幸福」となったのでしょうが、それが幸福なのかと。そして、家畜として有用な種(牛、鶏など)の個体数も激増したが、それらは小さな檻に閉じ込められている。これらの種は「成功」と言えるのか。直接的な表現はありませんが、著者は、農業革命後や産業革命後の人類の幸福は、しょせん檻の中で飼われている家畜の繁栄と同じではないかという印象を持っているのではないでしょうか。

昨今、人工知能が脚光を浴びていますが、これらシンギュラリティに結びつくのか。そしてシンギュラリティ後の人類は幸福になるのか。思い課題を提示した書籍です。

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2017.05.24

『午後8時の訪問者』


知らない誰かの死に対する、後悔。タイトルの「午後8時の訪問者」は、主人公が営む診療所に逃げ込もうと診療時間後にベルを鳴らしたところの描写。主人公が扉を開けなかったことにより「訪問者」は何らかの原因で死んでしまう。主人公は後悔の念に苛まれ、事件を追う。

サスペンスものだが、サスペンスものの派手さはない。徹底的に地味に映像を作っている印象だ。予告編にもある黒人に車を止めさせられるシーン、そのシーンを印象的にするためのコントラストだろう。

低所得者層の居住地区の診療所の医師という設定。登場人物の中で自分だけがエリートという立場。途中に出てくるセリフ「偉そうに」が、この立場を集約している。不法移民が多い社会を描いているが、それが物語の本線なのかもしれない。エリートが、誰ともわからない黒人女性を悼むという心だけで、なんとかストーリーが進む危うさを味わうのが、この映画の楽しみかもしれない。

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2017.05.06

『牯嶺街少年殺人事件』


1960年頃の台湾を舞台にした映画。この頃はまだ中国本土の共産党政権樹立と国民党の集団移住が記憶に新しい頃で、主人公の両親もいわゆる外省人の公務員。

主人公の少年、小四の中学受験失敗による親のわだかまり、夜間学級通学による不良たちとの付き合いを、ゆっくりと描いてゆく。途中の激しい展開にドキドキするが、それはあくまでも物語に厚みを増すための伏線。長い上映時間のほとんどは、じわじわとした青春群像劇。結局、タイトルにもなっている「殺人事件」も淡々と描かれ、観後感に置いていかれるエンディングでした。

この映画、1990年頃に、1960年頃の台湾を描いた映画です。1960年頃は日本も戦後復興期であり混乱の最中であっただろうが、台湾も国民党・外省人が大挙して押し寄せ社会階層が大きく変わる大混乱期だったかと。上海近郊出身の外省人公務員(当時の台湾のエリート層なのだろうか?)を父に持ち、自分は受験に失敗して夜学に行く中学生。この社会的立場はそうとう不安だったろうと思う。1960年の台湾の世相が気になる。

スクリーンに描かれるセット、小道具で日本統治の面影を多分に感じさせる。日本家屋、日本刀、短刀。日本が台湾を統治するためのインフラを国民党が利用したのか、日本家屋が外省人の住まいになっていて、日本人でもノスタルジーを感じる映像となっているところも興味深い。

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2017.05.01

『ネットの高校、はじめました。新設校N高の教育革命』


角川ドワンゴがインターネット上に高校を開設するニュースが以前にあったことを、本書の新聞広告で思い出しました。

その後が気になったので本書を手に取りました。「ネットの高校」があり得るのか?と思ってたら、法律上の実態は通信制高校なのですね。広域通信高校という分類で、最近は不登校になった経歴のある児童の進路として重要な存在になっているジャンルらしい。ひと昔前は通信制=勤労学生でしたが、時代は変わったものです。

他の広域通信高校と大きく違うと紹介されているのが、ネットによる擬似教室と、プログラマ養成などの技能系でしょうか。個人的には阿部光瑠の指導が24上で得られる将棋部が羨ましかったり。(なんでも灘高将棋部に勝ったとか。)

しかし、本書は、雰囲気的には分厚い有料の学校パンフレットでしかない感じ。で、特別に輝いている生徒ではなく大部分の生徒の現実はどうなんだろう?がなかなかわかりません。まだ開校1年で、卒業生が社会で活躍するには時間がかかるので仕方ない面もありますけど。

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『3月のライオン』(映画版 後編)


先日観た「3月のライオン」の後編。アニメやコミックのストーリーからはだいぶ外れ、映画独自ストーリーが進行します。

ひなののイジメ問題や川本家の父親問題など、ストーリーにいろんな要素を組み込んできました。見どころを増やした感もありますが、話の焦点が絞りきれずボヤけてしまった印象が強いです。

主人公桐山零は、そして香子や川本家の娘、後藤など登場人物は孤独なのか。後編のストーリーは孤独さを強調して最後に連結を見せる工夫なのだろうなと、理屈で解釈しちゃうような演出でした。

これは、盛り込みすぎ残念って感じでしょうかね。それでも見応えは十分です。原作という土台が、かなり立派です。
3月のライオン

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2017.04.29

『週刊文春編集長の仕事術』



「文春砲」でおなじみのスクープ雑誌「週刊文春」の編集長の、仕事に対する姿勢が書かれています。

繰り返し書かれているのが「フルスイング」。毎号、常にフルスイングであるべきだとのこと。これって、当然のことなんだけど、なかなか実施できない事柄。(よくある対極が「明日から本気出す」ですね。)これができる人は、キチンとした仕事ができる(本書でいうと、売れる記事が書ける)人なんですよね。

結局、全編を通してフルスイングぶりを語る本なのですが、合間合間にある人間付き合いの心構えやらリスク管理の間合いなんかも読み応えがあります。全く違う仕事をしている僕でも、勉強になる部分が多い。というか、人との接し方を心得ていて、リスク管理の勘所も押さえているからこそ、フルスイングできるのでしょう。

部下へのモチベーション管理法まで含め、日本の会社の管理職みんなにお勧めしたい本です。

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2017.04.09

『SING』

ユニバーサルの子ども向けミュージカルアニメです。
ドタバタコメディーを音楽に乗せて描きます。アングル自在カメラ長回し的なシーンなどもあり、CGアニメで観客を引き付ける技術も向上しているなと感じました。

劇中に使われている曲が多彩で楽しい。レディ・ガガやテイラー・スイフト、ビヨンセといったアメリカンポップ、J-POPからはきゃりーぱみゅぱみゅ、スティービーワンダーなどJASSソング、マイ・ウェイといったフォークなど、よくこれだけのジャンルを集めたなと。

作品はだんだんと盛り上がる定番的作りになっていて、子ども向けだけあって変に凝った構成にしていないのがいい。楽に素直に楽しめます。最後に1曲ずつ登場人物のソロ回し的なシーンが比較的長くあるのですが、ここで一番盛り上がるように作ってあります。大人でも盛り上がります。発声上映なんかやったら、大騒動になりそうです。

ジャンル多彩なのが面白いと思ったのと、子どもが最後のシーンで随分と楽しんでいたのとで、家に帰ってサウンドトラックを購入しました。残念なのが、サウンドトラックのほとんどが英語版上映の歌で、長澤まさみやMISIAの音楽が入っていないことです。(スキマスイッチ・山寺宏一の2曲だけはボーナストラックとして入っています。)

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