2023.11.25

『古寺を訪ねて 京・洛北から宇治へ』


土門拳の写真とエッセイを文庫に編集した本。この巻は、京都・宇治を集めている。


エッセイから、土門が撮ろうとしているものを窺い知ることができる。空間、時間。過去の僧侶や庭師が、数百年前にここにいたという空間を、現代の写真で切り取ろうとしている。明恵上人の修行の場所、夢窓国師が作った庭、千利休が座った部屋。刹那の画角を切り取るだけにすぎない写真に、時間と空間を乗せる。だからこその、素材の切り取り方なんだと思う。土門の写真の迫力は、そこから来るのかと。


この本を読みながら東海道新幹線に乗り、東寺観智院を訪ねた。この本を読まなければ簀子縁の平あたま角足手打ちの釘など気にすることもなかっただろう。確りと足裏で味わってきた。

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2023.11.23

『男と女ー恋愛の落とし前ー』

狂気的な恋愛を描く唯川恵による、女性へのインタビュー集である。恋愛に嵌ってしまう女の本音を聞き出し、唯川恵が辛辣なコメントで追うという構成。男がいかにだらしなく、女がいかに愚かかをインタビューにより描こうとしているのだろう。

唯川恵は後悔する恋愛を求めている気がする。しかし誰も後悔のための恋愛は求めていない。今その時の感情と、よかったと思える日のために時間を過ごしているのだ、唯川恵がコメントでこき下ろしているのは恋愛の一面だという点を忘れてはならない。

登場するインタビュイーである女性たちの人生は、波瀾万丈である。それでも、やはりどこか現実的である。小説のような破滅は望んでいない。現実世界は現実的だと。

この現実的なインタビューを土台に、次なる唯川恵の恋愛小説はどのように道を外してくるか。

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2023.11.18

「コーヒーの科学」

コーヒーは嗜好品なので蘊蓄を語る人は多く、また蘊蓄を記す書籍も多い。しかし、この本はそういう蘊蓄本とは一線を画す。署名に「科学」の字が入っている。本を開いてみると実際に自然科学分野の視点でコーヒーのことが書かれている。アカネ科コーヒーノキの分類や遺伝、コーヒー豆の構造、味覚の感じ方とコーヒーの成分、焙煎におけるコーヒー豆内部の化学変化、抽出における二相分配、そして疫学の話まで。そして、どの分野もけっこう本気で述べているところがすごい。正直な感想を言うと、理系を拗らせている。はっきり言って、たかがコーヒーである。消費者としては、単に好みで飲んでいるだけで、人生がかかっているものでも何でもないのにだ。そんなことは著者も承知の上で、だからこそ本気に取り組んでいるのだろう。そこを楽しむ本である。

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2023.11.10

山形の朝

10月中旬に山形に行ったときの、朝の散歩の記録。

七日町の官庁街がスタート地点。ホテルの窓から見た東の山が美しかったので、そちらの方向に向かって歩き出す。中心街にある郵便局の建物がすてきで、歴史ある地方都市のよさが伝わります。
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花小路という昔の飲み屋街の入り口にある料亭「千歳館」。

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路地には用水路「御殿堰」山形市は扇状地のため、馬見ヶ崎川から市内中心部までこのような用水路が何本か掘られていたようです。
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坂を登って馬見ヶ崎川にたどり着くのが、扇状地である山形市の地形の特徴。僕がたどり着いたのは双月橋の橋詰。河川敷に降りると、不思議なオブジェが点在する芝生の広場。
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この日は低い雲が立ち込めていましたが、たまに雲の切れ目から遠くの山が顔を覗かせます。写真は葉山です。
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お腹も空いたのでそろそろホテルに帰りましょう。ということで、市街地方面に向かいます。適当に路地を入っていたところにあったのは山形北高校。建物の窓の形がすてきです。

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この高校は自転車通学の人が多いのでしょうか。自転車置き場が2階建て。
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この高校の敷地内的な場所に近代建築。「山形師範学校」とのこと。ここは山形県立博物館教育資料館として開放されているようなのですが、まだ早朝のため入れませんでした。

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文翔館が見えてきて、もうすぐホテルに帰着です。
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このあたりは官庁街で、通りに市役所と裁判所が並びます。裁判所の掲示板も気になりますね。

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さて、コンビニで山形新聞(やましん)を購入して、朝食にしましょう。

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2023.11.05

靱公園、あみだ池

10月下旬に肥後橋から西長堀方面に歩くことがあったので、その記録です。

昼休みの靱公園を歩きます。すぐに、公園の芝生に面した大きな窓のあるお店があったので、ここで昼食を摂ることに。正午直前でサラリーマンの混雑前。家族連れが和んでいました。アメリカ西海岸をイメージした店内かなと思っていたら、どうやらハワイ推しみたい。でも、食べたのはトンカツ定食。

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お昼休み時間帯の靭公園は、サラリーマン・OLがお弁当を食べる場所になっているようです。ベンチはほぼ満席で賑わっています。ちょうど、バラが咲く時期。10月も終わりかけだというのに暖かい日で、外でのランチ日和ですね。

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靭公園を離れて南に歩いていくと、なんだか読めない漢字の神社があります。「サムハラ神社」とのこと。街中の小さな神社ですが、次々と参拝客がやってきます。観光客もいます。境内に合気道の事務所があるので、武道かなにかに縁のある神社なのでしょうか。

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長堀通も越えてさらに南下すると「あみだ池公園」がありました。なんだかよく聞く地名「あみだ池」。でも、公園には池らしきものはありません。
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地図を調べてみると、この公園の西隣「和光寺」に池があり、この池があみだ池っぽい。

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お寺に入ってみると、ありました「阿弥陀池」。池が立派というより、石柱が立派です。ふつう、こういう池は弁天池とのイメージなんですが、ここは阿弥陀池なんですね。
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阿弥陀池の石の上では、亀がみんな同じ方向を向いて日向ぼっこしていました。
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2023.10.09

『作歌のヒント』


闇雲に短歌を詠むのではなく、きちんと入門書を読んで基礎を学ぼうとKindleで買おうと思ったら3年前に購入済みだった。3年間、足踏みをしていた。

永田和宏なりの短歌入門書。気鋭の歌人である河野裕子の側にいながら染まることなく現代短歌の王道を行っている感のある歌人の書く入門書であり、自分が学ぶ方向であると思っている。(とは言え塔には入らなかったが。)

いっぺんに全部は覚えられないが、読者を信じる、説明しすぎない、このあたりをまずは心掛けよう。あと僕に圧倒的に不足しているのは、歌集を読むことだ。アンソロジーではなく歌集を。駄作の重要性が語られている。高名な歌人でも多くは駄作であり、駄作を含めての歌集であると。この辺りの記述を読んで、とにかく詠んで学ぶことに躊躇いをなくした。

今週だ末には歌会にも出席する。とにかく、学ぶ。

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2023.08.28

片平川

麻生区多摩線沿線住民には馴染み深い片平川ですが、意外とちゃんと見たことがなかったなと、遡ってみることにしました。
片平川は麻生川の支流。柿生中学校裏のあたりの天神橋で、麻生川に注ぎます。
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天神橋の下では、サギが魚を待ち構えていました
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川沿いには監視小屋のような小さな建物。なんだろう。
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川は基本的に三方護岸の都市河川の形状です。
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左岸側を走っていたら、塀の向こうにゾウが見えますね。たぶん、マンションのミニ公園のすべり台だと思われます。
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左岸が開け、右岸は山に当たる地形が続きます。この地形が「片平」なのかもしれません。
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途中「仲堰跡」という石碑がありました。都市河川になる前は農業用水も兼ねていて、灌漑に試行錯誤して苦労していた様子がわかります。
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途中の「富士見橋」は、なんだか道路の様子が違います。突然、立派で耐久性がありそうな橋。
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右岸側の坂道を登っていくと、こんなところがありました。

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中央新幹線の換気口の工事現場に続く取付道路でした。2026年12月まで工事。そのあとは、何事もなかったような光景に戻るんでしょうか。

富士見橋から上流は、子どもたちの絵日記が飾ってあります。

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その先の橋は、フロンターレ橋。

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もう少し上流側に金井原公園があります。サルスベリの樹勢が立派です。

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そろそろ、上流端に近づいてきました。

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上流端近くに、石碑。柄のある石が使われているので判読しにくいのですが「亀井堰跡」とあり、俳句が2句詠まれているのではないでしょうか。

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この先は暗渠です。尻手黒川とテニスコートの間の不思議な空間が、片平川だと思われます。

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この先に、いかにも暗渠という道があります。

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でも、すぐにこんな階段。

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ここが、認識できる片平川の上流端なんでしょうね。

その先の栗木公園の貯水池を片平川の起点としてもいいかも知れません。

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でも、本当の源流は、栗木工業団地の最奥であるジローレストランの工場の裏の山ではないかと思います。

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身近な片平川、こんなところなんだなという発見の休日の朝でした。

 

 

 

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2023.08.18

『木挽町の仇討ち』

直木賞受賞作ということで、読んでみました。

様々な人生を歩んだ者たちが芝居小屋に集まる。そして、芝居小屋の前で繰り広げられる派手な仇討ち。仇討ちを見た芝居小屋で働く者たちに、ただ仇討ちを語せるだけでなく見た者の人生観をも語らせる、その構成が素晴らしい。そして、芝居臭い殺陣を語る木戸役者から導入して読者を引き込み、話者の人生の苦楽をエンタテイメントとして読ませる。そして、どんでん返しの結末の人情劇。ミーハーで読んだ話題作でしたが、よいものを読むことができました。

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2023.08.17

麻布十番暗闇坂

はっぴいえんどの「暗闇坂むささび変化」を聴いて、麻布十番の暗闇坂を確かめたくなった。

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この坂が暗闇坂。大江戸線麻布十番駅の近くです。暗闇坂を少し登ったところから振り返ると、鳥居坂下交差点(の1本南側)を谷底に、両側とも大きな谷になっているのがわかります。

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暗闇坂を登っていくと、両側が切り立って鬱蒼としてきます。暗闇だ。さすがにムササビって感じではないけど。

 

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登りきったところは、暗闇坂、大黒坂、一本杉坂、狸坂が交わる交差点。たぶんこれが一本杉。

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いくつか選択肢があるところ、狸坂を選択。降りてみます。坂の途中には取り壊し工事中の教会があったり、微妙な風情です。

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坂を下り切った所に、こんなに細い路地。というか、水路の蓋なんじゃないかという道。

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この路地の突き当たりは、人の家。というか、この道じたいが人の家を歩いているみたい。

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この先は、なぜか古めの民家が密集する地区。港区元麻布に、開発から取り残されたこんな場所があるとは。

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コンクリート壁の上は、麻布中学校・麻生高校です。

この集落に、宮村児童遊園という公園。国有地を借り受けていると説明書きがあります。右側が一段下がって古い集落、左側は崖です。

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左の崖を登ったところからの景色。谷間の集落の向こうに六本木ヒルズが見えます。不思議な光景。

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崖を登った先には、西町インターナショナルスクール本部館という素敵な洋館がありました。

 

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ここから、一本松坂、大黒坂を下ります。下りきったところが、麻布十番パティオ。道の真ん中の広場です。

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ここに、赤い靴はいてた女の子の像がありました。横浜の?と思ったら、なんと麻布の孤児院で亡くなったと書いてあります。

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赤い靴の意外な物語を知って、麻布散歩はおしまいです。

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2023.07.30

『土門拳 古寺を訪ねて』(斑鳩から奈良へ)(奈良西ノ京から室生へ)

4月の東京都写真美術館での土門拳の展覧会を観て、室生寺が気になっていた。7月15日、東海道新幹線と近鉄特急を乗り継いで室生寺を訪問した。真っ赤な翻波式衣文と黄金の白毫が心に残る金堂の釈迦如来、優しく微笑む弥勒堂の弥勒菩薩、青空に聳え立つ五重塔。土門がフィルムに収めたものを自らの眼で確かめることができた。そして、土門はどのような思いで仏像に対面したのか復習したくなり、一冊を人に借り、一冊を古本で取り寄せて読んだ。

本書は土門のエッセイと写真を文庫4冊に編集したもののうち2冊。聖徳太子の霊や鑑真随行者の仕事に思いを馳せるエッセイとともに、旅先で出会う人との会話も盛り込まれている。特に室生の人々との交流は深かったよう。土門は室生の人々の気持ちも境内写真に収めたのだろう。そんなことを思った、エッセイと写真の文庫本だった。

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