『ダブル・ファンタジー』村山由佳
読者の倫理観を揺さぶりながら、欲望と承認の迷路へと引きずり込む危険な小説です。主人公・奈津は、転がり落ちるような人生の只中で、「自分を引き上げてくれる男」を探し続ける。恋愛体質という言葉では足りないほど、愛情・快楽・承認欲求の境界が曖昧になり、誰かに愛されている自分、必要とされている自分を確認するために、男たちとの関係へと身を投じていきます。
本作で特に印象的なのは、奈津が男たちをセックスの相性や技量で容赦なく評価する視線です。素晴らしい体験としてのセックスと、くだらない体験としてのセックス。その落差の表現は残酷で、時に読む側がたじろぐほど露骨です。くだらないセックスをする男への蔑みは、読者に不快感すら与えます。その不快さこそが奈津の空虚さと切実さを際立たせ、作品の強烈な読み味を形づくっています。
物語には、自由な恋愛、自由なセックス、自由な仕事が描かれています。しかしその自由は、都会的な自立した女性像への憧れにも見える一方で、欲望に流され続ける漂流者の姿にも重なります。嘘をついて外泊し、劇作家と関係を持った時点ではまだ罪悪感があるが、物語が進むにつれ奈津の中から倫理が薄れ、どんな男と寝ても罪悪感が消えていく。その過程に読者も巻き込まれ、気づけば倫理の基準が揺らぎます。小説として非常に危険でありながらも、目を離せなくなります。
「よくここまで書いたな」と思わず唸ってしまいます。性、承認、自由、破滅。これらを真正面から描き切った本作は、読者の価値観を揺さぶる力を持つ一冊です。




















