2025.07.03

堀辰雄『風立ちぬ』

Audio Bookで聴きました。ひなたたまりというアニメ声優の声で聴いたため、少し混乱です。主人公と婚約者の節子が主な登場人物ですが、主人公視点のセリフを女性声優が話すため、途中でシチュエーションを勘違いしてしまいます。


サナトリウムに入院する婚約者と、付き添う主人公。そこに明るい未来はないはずなんだけど、美しい時間として描きます。萌え声の声優の朗読なので、余計に暗さは感じません。あるいは、死が近づいているとは思わず生きることを信じている節子の思いがそうさせるのか。

https://audiobook.jp/audiobook/154863?utm_source=appshare&utm_medium=app&utm_campaign=appshare-ios

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2025.06.19

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

早く死にたいと連呼する祖父と向き合う若者を描く。衰え死を待つだけの老人と、無職で所在なげだが若さに溢れて生への意欲に満ちている若者の対比が潔いほどに映る。筋トレもセックスもオナニーも、死を迎えるだけの老人への当て付けなのではと思うくらいの書き振りだ。そこまで若者と老人の差を広げておいたうえで、老人の生への執着を突然に表現する。はっとする。生への執着を見出して、後ろ髪を引かれながら新たな一歩を踏み出す。

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https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163903408

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吉田修一『パレード』

共同生活する男女の距離感。登場人物ごとにこの共同生活に対する思いは異なり、そして皆が依存しすぎないように気をつけながら生きている。そんな群像劇を、登場人物それぞれの語り口で表現する。

皆が脆く、脆さを隠して他者と関わる。周囲は脆さに気付いても、気付かぬフリをする。たとえ凶悪さを秘めていたとしても。

幻冬社サイトhttps://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344001558/

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2025.06.07

『あさお誕生ものがたり』

川崎市政100周年記念事業で作成された記録映画。百合ヶ丘開発から新百合ヶ丘農住都市開発あたりの「麻生区」ができた頃の開発の思いと苦労をアーカイブ映像を交えながら伝える短編の映画です。この頃の先人の苦労を礎にして、いまの新百合ヶ丘を中心とした住みやすい麻生区があります。機会をつかんで記録し、記憶を伝播することが大切です。

この映画は2024年の区民まつり、その後にイオンシネマで上映されました。その時は観に行くことができなかったのですが、柿生郷土資料館でカルチャーセミナーとして上映されることを知り、訪れました。武道館に120席ほどのパイプ椅子が並べられての鑑賞会。そのあとに、プロデューサーの芦澤浩明氏のトークでした。

短編映画ではまちづくりの大変さを、芦澤氏のトークでは映像づくりの大変さをきくことができました。街も記録も、どうやって残していくかが課題ですね。街に住むことで育んでいく我々にできることが何かはわかりませんが、残していくお手伝いができればと思います。

柿生郷土資料館 - 第99回カルチャーセミナー

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2025.06.06

有吉佐和子『悪女について』


女性実業家の突然の死を取り巻く27人のインタビュー集の形式を取る小説。戦後の混乱期を強かに生きる様子が描かれます。華族の没落と成金の勃興。世の中の構造の大きな転換期に貧しい境遇に生まれた女性が「悪女」としていかに生きてゆくか。スリリングだし、読んでて騙され感もあるし、インタビュイーのことを思って胸が痛くなることもある。騙されたとわかっているインタビュイーもいれば、公子を信じたままのインタビュイーもいるのだ。

悪女は幸福のまま転落したのだろうか。
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新潮社サイト

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沖縄南部のドライブ

沖縄本島南部

仕事で那覇に行ったので、延泊して観光をしました。那覇でレンタカーを借り、本島南部をまわることに。

旧海軍司令部壕に。那覇空港に近い、小高い場所にある戦争遺構です。丘の中に人道トンネルを張り巡らせ、軍指揮に必要な機能を配置していた場所。総延長450メートルを人力で4ヶ月で作ったというので、なかなかの強引な工事だったと想像できます。しかし、半年後に司令官は壕内で自決してしまい、この部隊は崩壊します。この壕から発信された「沖縄県民斯ク戦ヘリ」の電文にて、悲惨だったのはこの壕だけでなく沖縄全てだったことも思い知ることができます。
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ここから331号線を南へ。ときおり右側に青い海が見えます。浦添や那覇など市街地の海でも青くて美しいのですが、市街地を離れるとより美しいですね。ハンドルを握っているのでチラ見しかできず残念。

ひめゆりの塔。いわゆる西田発言で話題のスポットです。(全国紙ではもう下火になりましたが、琉球新報や沖縄タイムスではまだ大きく取り上げています。)報道では、展示が何を主張していて西田議員が何を主張しているのかわからないままですが、現地に行けば何かわかるでしょうか。まずは、いわゆる「塔」の前へ。実は塔の目の前には大きな洞があり、この洞は陸軍第三外科壕として使われた場所。ひめゆりと言われた師範学校( 沖縄師範学校女子部
、沖縄県立第一高等女学校)の学生が看護婦として従事していたとのこと。沖縄戦前の豊かな学校生活と、沖縄戦突入後の過酷な壕内生活が対比されて展示されており、戦争が奪ったものの大きさを思い知ることができます。そして、後半は生存者の手記の展示です。政治的な色付けはなく、女学生が見たこと、体験したことが淡々と書かれています。書き手は捕虜になるなと言われていたのに捕虜になってしまったこと、同級生を見捨てる形になってしまいながら逃げ延びたことに対する自責の念を持ちながらこれらの資料を書いています。戦争は生存者たちに対しても重いものを残してしまっていることを思い知ります。結局、西田議員が何の目的で発言したのか、周囲は何を批判しているのかの理解はできませんでした。
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少し西に走り平和祈念公園へ。海を望む広い芝生地です。平和そのものの光景ですが、ここは最後の激戦地。資料館には沖縄戦を生々しく伝える資料もたくさんです。車椅子に押されて展示を見ていた老女が、怖くてずっと来れなかったがようやく勇気を出して見に来ることができたと同行者に語っているのが印象的でした。彼女は沖縄戦からどう生き延びたのか、周囲の人間はどのような運命を辿ったのか、いろいろ思ってしまいます。芝生を眺めながら沖縄そばを食べ、平和のありがたさを噛み締めます。
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南東岸を少し北上。右手には美しい沖縄の海。南東岸は崖が海に迫る地形のため、ドライブしながら美しい海を眺めることができます。梅雨の合間の晴天、気持ちいい。知念岬へ。この岬も崖地の上で、心地よい沖縄の海の景色を堪能できました。
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海辺のドライブはおしまい、本島を横断して那覇方面に向かいます。途中、再建工事中の首里城に立ち寄りました。正殿は工事の仮屋で覆われていますが仮屋のステージに登ることができ、間近で素屋根を見ることができます。工事中だけの特典ですね。2年前に訪れた時はまだ材木を作っていたことを考えると、だいぶ進みました。
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那覇に戻りレンタカーを返却して、ドライブはおしまい。帰路のA737-800のウイングレットは桜のマークでした。
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2025.05.26

原田ひ香『喫茶おじさん』

あなたは何もわかっていない。そうやって終わる章が多い。会社では出世街道に乗ることができず、早期退職に手を挙げて行先がなくなり、退職金で喫茶店を始めるもうまくいかず閉店してしまう。なかなか思い通りにいかない、しがない中年を描きます。自分では、残念な人生と思っていても、周りからは恵まれている、うらやましいと思われてしまう、そんな地味な人生を送るおじさんです。

途中でそのことに気づき、だからといってやっぱりぱっとはできないおじさんですが、やっぱり豊かなんですよね、何かが。作中に出てくる喫茶店の美味しそうな食事のように。

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小学館サイト

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朝倉かすみ『平場の月』


オーディオブックで聴いた本です。互いに結婚歴がある中学校同級生の50代男女の再開。50代となると、それぞれの人生に色んな事情が積み重なっていて、若い男女の恋愛とは事情が違います。中年の恋愛の描写を見て、若いってピュアだよなと感じます。しかし、年を重ねてから見る恋愛も、その重さゆえ見ごたえがあります。若いと失敗しても次がありますが、中高年には失敗は重くのしかかってくるのです。その「重さ」を、より重いシチュエーションを用いて作り込まれている作品だと思います。
若い頃の恋愛は単に恋愛だけど、中高年の恋愛には生活や相互扶助みたいなのがついて回って、もはや真っ直ぐには受け止められないですね。過去まで含めた自分を恋愛相手にぶつけてしまうのは、あまりに難しすぎます。Image_20250526180301

光文社サイト

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2025.05.21

高瀬隼子『新しい恋愛』

高瀬隼子の短編集。恋愛を義務教育化する近未来を描いた表題作ほか、少しずれた恋愛を気持ち悪く丁寧にきれいに描く。恋愛への執着というか、不幸を呼ぶ恋愛が好きというか、不思議な感覚に囚われてしまう。高瀬隼子は読者の恋愛観を試しているのだろうか。そして、読者の恋愛観を皮肉って話が終わってしまう、裏切られ感。作者にボコボコにされたい方、ぜひ本書を開いてみてください。
講談社サイト
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2025.05.10

『失敗は予測できる』

いわゆる失敗学。技術系の事故・不良品に対する原因分析と対策立案のための指南書です。類書は多く出ており、過去にも何度か読んだことがあるような。2007年出版の本なのでだいぶ枯れているということもあります。それでも、失敗の累計は変わらず、枯れてこそ学ぶことが多いと感じます。失敗の累計を暗記することは難しいですが、こういう本を定期的に読んで思い出すことで、現場でのヒヤリハットをきちんとキャッチし、少しでも適切な対応が取れるようになれればいいなと

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