昨年末に辞任した元都知事の猪瀬直樹による、東京五輪誘致運動について書かれた本です。
出版日=都知事辞任日と、なんともまあ間が悪いことになってしまったのですが、それで話題作りにはなったのではないでしょうか。そういう僕も手に取ってしまいました。
1年間にわたる五輪誘致運動で、どういうところに力を入れ、開催を勝ち取ったかということについて、誘致の主体=東京都のトップである都知事の立場から記されています。
全体的には、プレゼンテーションがうまくいったという、自慢話に聞こえる文章が多いです。この辺はあまり約に立たないのでスルーなのですが、本書で注目しておくのは次の2点だと思います。
(1) 失敗からの復帰
(2) 皇室利用
まず、(1) 失敗からの復帰について。本書では3つ挙げられています。女子柔道体罰問題、猪瀬知事自身の失言(イスラムは喧嘩ばかりしている発言)、福島汚染水問題です。問題に対しては速やかに、誠意を持って、きちんと説明し、必要な部分はきちんと謝罪する。これをひとつひとつきちんと片付けたという話です。トップたるものこういう姿勢が大事で、これを都知事自身がきちんとやってきたので、誘致を勝ち取ったということでしょう。自分の、日々の仕事や生活でもこういうことをきちんと心がけたいです。(猪瀬知事自身の徳洲会事件の顛末がどうしてこの精神でなされなかったのかという疑問は残りますけど)
そして(2)の皇室利用。そもそも皇室利用の是非は議論になるのですが、それでも皇室という存在は日本にとって大きな存在で、諸外国にもアピール力が大きいものです。これを猪瀬知事が「切り札」であると認識し、その切り札をどのタイミングでどう切るか、考え抜いて実行したということです。センシティブな要素もある切り札ですが、結果としてうまくいったということは、切り札の切り方が成功したということでしょう。
猪瀬直樹の辞職で、誘致と実施がまったく別のトップによって行なわれることになります。その狭間に誘致の考えが整理されたものが出版されたことは、実施をしていく都民や役人、新知事にとっても大きな糧になるのではないでしょうか。