『紙の月』
NHKの番宣を見て読みたくなった小説。
主人公は1億円を横領してタイに逃げている。この結論を先に提示して、この結論に向けてメインストーリーが進むという挑戦的な手法を取っています。
結論がわかっているのに、それでも読み手をハラハラさせる展開。明らかに破滅に向かっているんだが、その破滅を恐れるままページをめくることになります。いつ一線を越えたのかわからないまま、それでも確実に一線は越えていて、もう戻れない。いつか割れるとわかっている風船をどんどん膨らませ、こんなに大きくなるのかと驚きつつもまだ膨らませなきゃいけない感覚というのでしょうか。
また、横領のニュースに接した周辺の人間もあいだ間に挟んでいて、これが効果的です。「一線」は越えていないものの金銭に対する感情に歪みがあり、いつそのバランスが壊れてしまうのかという人間模様がばら撒かれています。こういう人間模様を描くことにより、1億円横領犯人と読者との連続性を演出しています。この演出によって、読後感が苦いものになります。
さすが角田光代だと思わせる重量級の小説でした。
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