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2014.03.23

『意外と会社は合理的』


ビジネス書コーナーで平積みになっていた、話題のビジネス書です。原題は『THE ORG - The Underlying Logic of the Office」という固めのもの。本文もけっこうしっかりした本格的組織論です。キャッチーな邦題と装丁からは想像できませんでした。(意外と本書は本格的)

第1章「拡大を恐れるベンチャー企業」で、個人で商売するメガネ職人と、巨大ヒューレット・パッカード(HP)を比較しています。当然メガネ職人には組織はなく、HPは組織でがんじがらめです。組織の大きさによる形態として、自分だけで全てをこなす(個人メガネ職人)→トップが目を配れる(第5章で紹介されているインド繊維工場の成長の限界)→中間管理職を用いた組織管理による巨大組織という形態があります。大きくなればなるほど組織は官僚的だし、トップじゃない人に権限を移譲しなければいけないしで、組織を拡大するのに慎重になってしまうトップの苦悩がわかります。

第2章〜第3章で、ボルチモア市警やメソジスト教会のインセンティブ設計の例を分析し、インセンティブ設計の難しさが描かれています。巨大企業P&Gの事業部制からマトリクス型組織への変化における、官僚主義やインセンティブ設計に起因する組織間の対立なども複雑です。P&Gでは企業文化の変革による組織の改善を果たした好事例なんですね。第8章では、FBIを例にマルチタスク組織におけるインセンティブ設計の難しさが解説されています。

第4章「イノベーションは抑圧すべし」では、マクドナルドのフランチャイジーでのローストビーフ販売禁止を例に、組織の規律の重要性を説いています。米陸軍における非常に厳しい規律はミクロの視点では無駄が多く見えますが、
指揮命令系統のトップに立つ指揮官から底辺にいる歩兵まで、誰もが自分の頭で考えることを学ばなければならない(ジェフ・ピーターソン p.152)
組織の大きさと任務の危険性を考えるとどうしても上意下達の官僚組織と規律が必要なんだってことがわかるとともに、そのなかでどう組織の変革を促す仕掛けを入れるかの大切さと難しさがわかります。

第6章「会議こそ最も大事なCEOの仕事」で、会社トップの会議の重要性が書かれています。この章ではないですが
組織運営に不可欠な"ソフト情報"を集めるには、人間同士が直接顔を合わせて関わらなければならない(p.297:結論章)
と、本書では会議の重要性を強調しています。この章ではCEOの高額報酬についての分析も面白いですね。

第7章「組織文化を守るのは高コスト」では、
組織文化の影響力は個人の意見をはるかに超えるもので、それが組織全体のあるべき姿を決定づける(p.241)
従業員に正しいメッセージを送ることができれば、かなりの無償労働を引き出せる(p.248)
など、組織文化の重要性が説かれていて、うまく組織文化を変革することができた企業が成功し、変革に失敗したり(誤ったインセンティブ設計を行なったり)、変革ができなかった組織が衰退する事例が挙げられています。

本書をざっと読んだポイントとして
(1) 巨大な組織は官僚制度と中間管理職の存在が何だかんだと言っても不可欠である
(2) 変革と規律は対立する要素だが、いずれも組織に不可欠
(3) 組織文化が組織の効率に関わる重要な要素である
の3点が要点と認識しました。


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