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2016.02.12

『将棋・名局の記録』

将棋世界の観戦記者、大川慎一郎氏の観戦記からセレクトして集めた、観戦記集です。

大川氏の取材に臨む姿勢が随所に見られ、棋譜を残す棋士だけでなく、観戦記者の入念な取材によって観戦記が綴られているのだと知りました。

大川氏の特徴は、局後の取材にあるようです。勝者、敗者とも局面についてきちんと取材し、周辺の棋士へのヒアリングも合わせ、読者が望む観戦記に仕上げる。そのための棋士との関係作り、将棋の知識の蓄積も驚くばかりです。特に、敗戦棋士への取材については、大川氏のポリシーが強いように思います。正直、敗戦棋士には取材しにくい。それでも、きちんと取材し、観戦記に反映させる。だからこそ読者にとって観戦記の価値が高まる。

気になったのが、ソフトとの付き合い方。2014年ごろからコンピュータソフトは棋士よりも棋力が高くなっていて、先日は情報処理学会が課題を達成したと宣言までしました。そのソフトとの関係で本書が書いているのが2点。

まず1点が、ソフトが開拓した新手。角換わり腰掛け銀での▲5五銀左のことが10章(2015年1月11日〜12日 王将戦第1局 ▲渡辺明-△郷田真隆、将棋世界2015年3月号掲載)に書かれています。ソフト発の新手の是非は、これからも議論になりそうです。

もう一つが、ソフトによる局面評価。12章(2015年8月5日〜6日 王位戦第3局 ▲広瀬章人-△羽生善治、将棋世界2015年10月号掲載)に書かれている、羽生善治が指した△6七銀の悪手。最近はソフトに局面を掛けながらネット観戦するファンも多いのですが、そのソフトによる形勢判断が一気に広瀬優勢に振れた手です。局面の評価を人ではなくソフトがしてしまう。人よりもソフトのほうが圧倒的に高い棋力となると、ソフトの言っていることがどうしても正しくなってしまう。そうなった時、将棋観戦はソフトとどう付き合うのか、課題を残した観戦記でした。


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