『ひそやかな花園』
幼少の頃に、他の家族とキャンプに行っていた。そんな微かな記憶。でも親はそんなキャンプ知らないと。親は何かを隠している。しかし、何をどうして隠しているのかわからない。
徐々に欠片を手繰り寄せ、だんだん全体像に近づいていく。その全体像が見たかったものなのか、見たくなかったものなのか。
この小説で感じたテーマは二つ。一つめが、出自を、人生においてどう拘って生きていくのか。出自なんて関係なく、今の人生の局面こそが大事と思うか、出自こそ自分のアイデンティティだと思うのか。
もう一つが、劣等感について。沙有美という登場人物が、劣等感を持ち続けている女性として描かれている。そして、同じ出自の仲間に対し、どうして「持っている側」と「持っていない側」に分かれてしまったのかと嘆くシーンがある。しかしこれは、このあと続く話の序文。父親たちの劣等感。自らの欠陥に対する劣等感なのか、自分より優れた能力を持つであろう知らない人間に対する劣等感なのか。
そして、劣等感に潰されてバラバラになっていく家族、生活。
角田光代らしい、重い小説でした。