『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』
将棋ソフト「ポナンザ」開発者の山本一成による、将棋ソフト開発の考え方を平易に解説した本です。
評価値のパラメータ調整が人の手によるものから機械学習によるものに変わってきた変遷、チェス・将棋・囲碁のコンピュータ思考の各々の壁、囲碁におけるディープラーニングによるAIの適用など、開発者の視点ならではの説明が、なるほどと思わせる。AIについてはここ最近たくさんの解説本が出ていますが、学者によるそれらの本に加えて本書を読むことで、AI台頭の時代を立体的に捉えることができると思います。
「黒魔術」の記述が特に興味深かった。何であれいい結果が出るんだから適用しとこうという考え。理屈が伴わず結果が出るものに対し拒否反応を示す人も多いと思います。将棋ソフトの世界はそうでなく「黒魔術」をどんどん採用していくコミュニティが成り立ってるんですね。
将棋や囲碁という盤上だけの世界(いわゆるサンドボックス)だけでAIを動かしている著者でも、AIの暴走をかなり気にしている様子が後半の文章からうかがえます。人間をゴリラと誤認識したり悪意のあるツイートを垂れ流すAIが少し前に話題になりましたが、将棋や囲碁は盤上にしか影響が及ばないので、かなり「安全」なAI適用なはずです。なのに暴走が気になるというのは、裏返すとAIの活躍の可能性が相当に大きいと著者は考えているんだと思います。
急激に伸張するAI。そういう時代の目撃者に我々はなっているのかもしれません。
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