『自閉症の世界』
最近なんだか発達障害ブームである。成毛眞が勝手に発達障害を(たぶん無診断で)表明したり、堀江貴文が多動なんて言葉を用いて本を書いたり、NHKが少数の事例をキレイごとで報道したり。
結局、発達障害の全容を掴む情報が見つからないと思ってたところ、本書が見つかりました。
結論から言うと、本書は自閉症って何?の疑問に答える内容ではありません。自閉症に対する研究史をまとめたものと言っていいでしょう。
自閉症の一つの症例に自身の名が付いているアスペルガーや米国での上司であるカナーの研究過程が根幹。ただアスペルガーはオーストリアの医師で、ナチスによる民族浄化との関わりが微妙なようである。特別小児病棟の究極的医療支援(精神病の子どもは殺す)なんておぞましい記述も本書にあり、ちょっと前まで差別や偏見どころではないところに患者が追いやられていたと知ることができる。日本の優生保護法の問題は、問題のごく一部でしかないのだろう。
後半の、例えば「DSM-Ⅳ修正版」のくだりで、自閉症診断の手法がまだまだ定まっておらず、手探りであることが推測される。この分野、まだまだ最先端の研究者ですら難しいのだ。適当な有名人がしたり顔で発言すべきじゃなさそう。
本書にもあるし成毛の本などでも触れられているが、自閉症スペクトラム患者は従来社会では活躍しにくいもののシリコンバレーでは主役であるという論説。これは、ごく一部の自閉症スペクトラム患者が活躍の場にIT分野を見出した(少し前なら芸術分野もそうだったか)に過ぎず、自閉症スペクトラム患者がみんなIT分野で活躍できるわけではないということに留意したい。その上で、患者が社会でどのような活躍ができるか考え、場を提供する組織が必要であろう。そうでないと、特例子会社での福祉就労的な活躍(と言えるか?)にとどまってしまう可能性が高い。