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2020年9月の4件の記事

2020.09.17

『将棋名人血風録 ー 奇人・変人・超人』


棋士の加藤一二三九段が、歴代の名人の人となりを語った本。木村義雄や升田幸三と言った将棋の歴史を語る本に書かれているような棋士との対局が語られていて、加藤一二三は本当に長く現役棋士をやっていたんだなと驚く。

本のタイトルに「奇人・変人」とあるが、内容は至って温厚で、ひふみんの人の良さが表れているほんわか本。努力と信心で栄光を掴むことができる、いま成果が出せなければ、成果を出せる時が来るのをきちんと待つ。一局一局が大切でありながら、長期的な研究の方針を立てなければいけないという棋士の両面も見ることができる。

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2020.09.12

『うつ病九段』


3年前に鬱病で休場していた棋士先崎学九段の手記。鬱病に罹患して入院してから、仕事を休みリハビリして棋戦に復帰する直前までを振り返ります。

先崎九段は元A級棋士という実力よりも、3月のライオンの監修やエッセイストとしての知名度の方が高い人物。半分くらいは文筆業の人だと思ってよいか。鬱病を自ら振り返り書かれた本はなかなかないだろうが、この本はキチンと読ませる本に仕上がっている。鬱病は心の風邪みたいに言われるが、本書を読むとそんな気軽な病気でないことがわかる。先崎の軽やかな文章で、病気の深刻さが重く伝わってくる。


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2020.09.08

『ネットは社会を分担しない』


ネットは社会の政治的意見を左右に分断しているのか?という疑問に対し10万人規模のアンケートによって確かめるという企画。この仮説の結論はタイトルの通り。

本書はみんなが何となく感じている「ネットが社会を分断している」現象について状況を述べたあと、紙幅のほとんどを10万人アンケートの解釈に使う。アンケートの様式、回答の分類と数値化、クラスタ分け、相関など。ネタとして取り扱っている社会分断や政治志向はもうネタでしかなく、このネタによってデータマイニングやデータ分析の実習をやってるんじゃないだろうかという内容。自粛期に統計学とか勉強してたから興味を持って読めたが、そうでない人には冗長でつまらないのでは?と思ってしまう。


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2020.09.02

『笹の船で海をわたる』


学童疎開を経験したというから昭和10年前後生まれだろうか。その世代の、ごく普通の主婦の老後の回顧を描く。

常に受け身で、自分の意思を出すことなく流されるままに生きることがこの世代の特徴なのだろうか。こういう普通の女性と、自分で世界を切り開いていく新しい時代の女性を対比させ、自分自身のあり方に疑問を持つという構図。『対岸の彼女』と似た関係か。

戦後すぐの頃から老後まで、昭和の世相を交えてだらだらと回顧が語られる。これだけだらだらした文章は角田光代に相応しくなく、恐らく主人公の流される生き方の表現として意図的に作ったものだろう。この文章の読み辛さは、主人公の生き辛さの表現でもあると。

喉の奥に刺さった棘を気にしながらも抗うことなく生きてきて、老後にふと悟る。ここでの行動が主人公にとっていい選択だったか悪い選択だったかはわからないが、自分で考え自分の責任で行動することの価値を角田光代が描いて集結する。読みながら、この小説はどこに向かっているんだろう?と心配になったが、ちゃんとこの作者らしい終結で安心した。

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