今村夏子『ピクニック』
映画『花束みたいな恋をした』で繰り返し語られる「今村夏子さんのピクニックを読んで何も感じない人」という台詞が胸に残り、自分がどちら側の人間かを確かめたくなった。
ローラーシューズをはいた女性が配膳する飲食店。フーターズみたいなところか。ここで勤め始めた若くはない女性、七瀬さんが主人公。若く、ちゃんとローラーシューズをはきこなして踊りもできるルカの視点で小説は進む。七瀬さんは自分より少し不幸であることがルカにとって望ましいという微妙な立ち位置で安定するのがよい。しかし「新人」によって、安定が崩されてゆく。
嘘を嘘だと指摘するのが善人なのか、嘘に乗っかりエスカレートさせてゆくのが善人なのか。ドブ浚いをするオバさんにピーナッツを投げる善人ぶった行動の悪意の重さを、読後に振り返ることになる。
でだ、八谷絹(有村架純)が語る「今村夏子さんのピクニックを読んで」感じなければいけないこととは何だったのか。山根麦(菅田将暉)が仕事に追われ余裕と絹への愛情を失うなかで絹が繰り返し述べることの意味との関連で解釈しなければいけないのだろうが、僕には出来なかった。こういう僕は、七瀬さん側でもなく新人側でもなく、ルカ側で生き続ける人間なのだろう。