「街とその不確かな壁」
村上春樹の小説。村上春樹らしいリアリティとファンタジーが融合した世界を、より色濃く、複雑に描いている。現実と空想、夢と現、生と死、実体と影。その境目が曖昧だと村上は表現したいのだろう。そして、どちらが現実なのかも明確に言い表せない。そうして、読者にどっち側にいるのかの認識を惑わす文章。
この本を読み出す前、知人に「最近、夢を見ていない。若い頃は見ていたんだけど。」を話をしていた。ところが最近、夢を見るようになった。ただ、夢には論理性も一貫性もなく、目が覚めて思い返すと夢だとすぐに判る。しかし、もっと鮮明な夢を見る人もいるのだろう。壁に囲まれた街は、そういう明確な夢なのかと。
そして、夢の中でも夢がテーマだったり、自分の内にいる他社との会話をしたりと、読者の足を地に付けることなく終章に向かう。