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2024年8月の3件の記事

2024.08.30

『いい子のあくび』

いい子であるがゆえに生きづらい生き方をしている人っているよねと思う。いい子のネコを被っていることは、本人も認識していて、ちゃんとしたネコの被り方ができることこそいい子だと思っている。だからこそ、ネコを被ることに多大な努力を費やし、疲弊する。


この生きにくさを、心が真綿で締め付けられるような速度で描いている。読者が「いい子」の特異性にいつ気付くのかと試しているような文章だ。


この作者にかかると、全ての人生が重く苦しいものに感じられそうだ。

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2024.08.19

『燕は戻ってこない』

たまたまテレビのチャンネルを回した時にドラマをやっていた。代理母の話。衝撃的な内容で、前後のストーリーを全く知らないまま10分くらい見入ってしまった。ドラマのタイトルと原作がわかったので、きちんと読もうと手に取りました。


子が産めない妻と、子を持ちたい夫。年齢的に今のうちに子を持たないと育てられない焦り、母からのプレッシャー。この裏に隠れ見える夫婦の生まれ育ちの格差。さらに、代理母に手を挙げる貧しい女性。いまだ人間は身分の元で生きているのか。


家系に卑下する妻も、代理母から見たら圧倒的強者である。妻の立場を間に置くことで、代理母の立場を弱く描いている。しかし、この代理母も何か特別貧しい女性ではなく、ありがちな地方出身者でしかない。友人が風俗で働くのを軽蔑する女性なのだ。それでも、目の前に絶望して、自分の身体を金に変える「ビジネス」に委ねてしまうのだ。


金と引き換えに心を失ってゆく描写が恐ろしい。金で解決しようとした依頼者夫婦の描写も恐ろしい。やはり「人間」そのものを売買してはならない。金銭が人間を支配しては行けない。重い小説だった。

https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/tsubame/

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2024.08.11

『名画を見る眼』

美術史家、高階秀爾による西洋絵画鑑賞の手引本。テレビで高階秀爾のインタビューが放送されていて、気になっていました。1969年(55年前!)というかなり歴史のある本ですが、2023年にカラー版として再刊行されました。といっても僕はKindleで買ったので、文章をPaperWhiteで読んで図版をiPhoneで観るという使い方で読みました。紙の本のほうがよかったかな?

各章に歴史的背景という節がある。それぞれの絵画の時代背景を簡潔に説明している。このことで、絵画〜時代背景〜絵画の繋がりがわかる。企画の展覧会で画家の絵画をピンポイントで観ると、そのピンポイントしか鑑賞できない。それが、この本の歴史的背景を理解することで、絵画史の流れのなかの画家の位置付けを認識しながら絵画を鑑賞できるような気がする。詳しく絵画史を学ぶのは骨が折れるが、新書2冊という分量でコンパクトにまとまっているので、これなら理解できそう。

55年前の本だけど、文の古さを感じない。(カラー版出版にあたり言葉遣いなどを書き直したのかは不明。)マニアでない一般的な美術館来訪者に向けて、自然にわかりやすく解説してくれている本を読むことができました。

カラー版の図版のうち各章の扉の絵は、岩波書店のWEBサイトでも見ることができます。(太っ腹!)
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7207
9784004319764_600in01

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