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2024年10月の3件の記事

2024.10.14

『東京貧困女子。』

現代社会で貧困に陥っている女性への取材記録。

前半は親の貧困で大学に通うのが困難な話、後半はDVなどが原因でシングルマザーになり貧困に陥った話。

機会は平等にあるというのは表向きの原則で、実際には機会は偏在しているのが事実。その代表的なのが大学進学だと感じる。大学進学という慣例に矛盾が孕んでいる。大学を卒業しないと貧困に陥る可能性が高まるにも関わらず(特に土木建築業に従事することが少ない女性は特にそうだ)大学進学は贅沢な行動であり、公的な助成制度は極めて貧弱であること。これは特殊な専門性が求められない事務職に対して大卒資格を求めている雇用慣例に問題があるように感じる。ただ、幹部候補でない一般職に対して高い報酬を支払う誘因が企業側に存在しない。そのあたり、簡単に解決する方法が思いつかない。

シングルマザーになったり介護離職して、その後に「普通」に復帰できない女性のインタビューも痛々しい。「非正規」になってしまった労働者が「正規」になるためのハードルはまだまだ高いのが実際なんだろう。この本で語られている貧困は、雇用の流動性の低さの現れである点も見逃せない。しかし著者は新自由主義に疑問を唱え、流動化が底辺に固定化される労働者を生んでいると主張しているように読める。きっと、労働市場の形成にどこか矛盾があるのだろう。「普通」に生活できている国民がもっと多くの税金や社会保険料を負担して貧困に陥った人々を救済するコンセンサスが本書のような記事で取れるとは思えない。強い解雇規制が現在の正社員の強い立場を産み、その反動としての正規非正規の格差が生まれていることにも注意が必要。このあたりも、ぱっと解決策が見いだせない。

インタビュイーはDVやパワハラなどで精神疾患に陥った人が多く、よけいに痛々しい。読後感は非常に悪い。人の不幸を覗き見する読書。読後感は最悪だと知っているのにどうしてこのような本を手に取ってしまうのか。酔って後悔するのに深酒をしてしまうのに似ている気がする。

この本は2019年の出版。コロナを経て、世の中はどう変わったのだろうか。

https://str.toyokeizai.net/-/book/hinkon/

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2024.10.11

『ツ、イ、ラ、ク』

幼少期の性の認識から、物語は始まる。エピソードが冗長かとも思えるが、先に続く物語の重みを持たせるための積み重ねである。

夜10時半のポスト前。そこに幸福が待っているわけではないのは互いにわかっていること。そこに向かっていることをすでに後悔し、それでも引き返せないのだ。不幸を吸い寄せているのは愛なのか快楽なのか。


終盤のグランドホテル的な場面の捉え方が難しい。登場人物一人一人が中学校でどのような言動をしていたか、終盤には覚えていないし。遡って確認したり再読したりすると、終盤の同級生の離合のシーンを捉えることができるのだろうか。小中学生の頃に持っていた性愛や倫理観は大人になって大きく変化しているし、しかし今の感性は小中学生の頃の延長であることも事実。


ラストシーンのポスト前。堕ちるところまで堕ちても、もはや罪悪はないはずだ。それでも、罪悪に落ちてゆく余韻を残す。


https://www.kadokawa.co.jp/product/200601000330/

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2024.10.06

『金魚を逃がす』

一時間しかもたないといふ保冷剤ポケットに入れあなたを待てり(鈴木美紀子/日経歌壇2024年9月28日)

この歌を朝刊で読み、一時間が何の時限かを理解できずXで呟きました。作者本人からの返信を得ましたが、僕の読みとは大きく異なる作歌意図でした。この作歌意図は意外すぎた。歌集を出している歌人だったので、歌集を手に取りました。

際どい歌が多い歌集でした。色気と残酷さを優しい言葉で包み込む歌。しかし、完全には包んでいない。ロングスカートのスリットのように。優しくつつまれた中には、冷たく鋭いものが光る。怪我することがわかっていながら、その優しさに包まれたくなる。

言い訳にならないことは自明なのに、それでも言い訳を受け入れさせる強さをこの歌人の言葉は持っています。五感の全てと官能と心の冷徹が、この歌集に散りばめられています。妖艶な女に近づき頬を打たれ、その痛みさえ性感に似た快感と捉えるような歌集でした。

https://www.coal-sack.com/syosekis/view/2984/鈴木美紀子歌集『金魚を逃がす』


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