『金魚を逃がす』
一時間しかもたないといふ保冷剤ポケットに入れあなたを待てり(鈴木美紀子/日経歌壇2024年9月28日)
この歌を朝刊で読み、一時間が何の時限かを理解できずXで呟きました。作者本人からの返信を得ましたが、僕の読みとは大きく異なる作歌意図でした。この作歌意図は意外すぎた。歌集を出している歌人だったので、歌集を手に取りました。
際どい歌が多い歌集でした。色気と残酷さを優しい言葉で包み込む歌。しかし、完全には包んでいない。ロングスカートのスリットのように。優しくつつまれた中には、冷たく鋭いものが光る。怪我することがわかっていながら、その優しさに包まれたくなる。
言い訳にならないことは自明なのに、それでも言い訳を受け入れさせる強さをこの歌人の言葉は持っています。五感の全てと官能と心の冷徹が、この歌集に散りばめられています。妖艶な女に近づき頬を打たれ、その痛みさえ性感に似た快感と捉えるような歌集でした。
https://www.coal-sack.com/syosekis/view/2984/鈴木美紀子歌集『金魚を逃がす』
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