『真鶴』川上弘美
夫が失踪して15年、ふと真鶴に立ち寄る。そんな物語です。
物語の中での真鶴は幻想の場所。しかし、この物語では現実と幻想の境目は曖昧に描かれています。それによって、失踪した夫の存在も、不倫相手の存在も、不倫相手の声を出す見知らぬ男との一夜も、現実なのか幻想なのか、読み手は戸惑ってしまいます。
真鶴での幻想は過酷です。何のメタファーなのかもわからないまま船は燃え、赤ん坊は海に沈んでゆく。夢の中の光景として描くことで、残酷な景色は美しく消化されます。
真鶴という絶妙な場所選びも川上弘美のセンスだろうか。異界と現実を行き来するのに電車で2時間ほどという、近過ぎず遠すぎない距離感、岬と崖がある地形、寂れた街、美しい響きの地名。この場所を美しく描きすぎないところもよかったです。
ふらっと訪れたくなる、小田原から12分で異界に入れるかもしれない。
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