『BUTTER』柚木麻子
人生はいつから狂わされているのか。関わり始めたときなのか、それとも関わりを終えるときなのか――。
この小説では、殺人容疑の未決囚である梶井真奈子と、彼女を取材する記者・町田里佳が登場します。東京拘置所の面会室、アクリル板越しにしか接することのできない二人。力を行使する余地などないはずなのに、真奈子は次第に里佳を支配していきます。
しかし本質は「支配」そのものではなく、その後に訪れる冷酷な切り捨てにあります。そこから怒涛のように里佳の立場が揺らぎ、一気に物語はクライマックスへと突入していく。その展開は圧倒的な読み応えを持っています。
囚われの身でありながら、真奈子は言葉と存在感で里佳を絡め取り、手に入れ、手のひらでたっぷり温め、走り回らせてまるでバターのようにし、、やがて握り締めて溶かして捨て去る。その関係は取材という枠を超え、支配と依存の揺らぎを鮮やかに映し出します。
温もりと残酷さが同居する人間関係の本質を突きつけられる――。この小説は、食や欲望を媒介にしながら、人生がいかに容易に狂わされるかを描き出します。狂いは静かに始まり、気づいたときにはもう戻れない。その余韻が、読後も長く心に残ります。
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