『下垣内教授の江戸』青山文平
幕末の江戸郊外の豪農。剣術は免状を取るほどに上達した。時代は刻々と変化する。身の処し方はどうすべきか。幕末のダイナミクスを描いた時代小説です。小説現代2024年11月号に掲載されていた小説が積読になっていたものを、ようやく読みました。
主人公の下垣内邦雄が、人を切るために旅に出る話。旅に出るまでのプロローグが、長い。冗長ではなく、重さに重さを重ねてずしりとくるプロローグです。こうでもしないと、人を切る重さなど、表現できないのでしょう。下垣内の出身地である森戸がどこかは明確に示されていませんが、多摩近郊とあり、鑓水や瀬谷などの具体的地名も出てきます。都筑郡やそこら辺のイメージで、読み進めます。武州世直し一揆など幕末の荒れ狂う世相の中で豪農は肥え太る。それをよしとしない感覚なのでしょう。どうやって生きがいを求めるのか、そんななかで思い立った人斬りの旅。不穏を楽しみながら、ページを繰ってしまいます。
冒頭の、下垣内邦雄が東京美術学校に功あり帝室美術館の要職にあったとの記述と途中の人斬りの旅が繋がらない。でも伏線なんでしょ?は、トンネルの両の切羽がぴったり繋がった感をもった読後感になります。時代小説を、スリルを持って味わえた作品でした。
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