『カフェーの帰り道』嶋津輝
戦前戦後、東京下町の場末。この頃に生きた女性の立ち位置は、なかなか難しいものではないでしょうか。政治は近代化してジェンダーの壁は徐々に崩れつつありますが、経済や戦争は男性を中心に回っていて、女性には女性の職業がある。カフェーの女給という仕事も、女性の職業の一つ。女給の位置付けも幅広く、食堂のホールで食べ物を運ぶ仕事から、ほぼ性風俗の従業員まであります。それらをひっくるめて、女性独特の仕事という目で見られていたのだと思います。自らの意志で働きに出る女性は、なんとなく不安定な場所にいる。そして、時代の流れに翻弄されやすい。それゆえ、華やかさではなく哀愁を感じる存在です。都会に生きることって、華やかでもなくみすぼらしくもなく、すき間に小さく咲く一輪の花のようなもの。通り過ぎる人にとっては単なる雑草かもしれませんが、足を止めて顔を近づけた人には、咲いた場所、季節、花弁の色それぞれの個性と物語を伝えてくれるものです。場末のカフェーの女給は、そういう存在なのでしょう。

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