カテゴリー「書評」の651件の記事

2024.05.20

「たけくらべ」

言わずと知れた樋口一葉の短編小説だが、読んだことがありませんでした。大吉原展で紹介されていたので気になり、Kindleに落としました。買ったのは河出文庫の現代語訳。一葉の文体を活かしつつ現代語訳された本です。

句点がなく読点だけでつながっている古文独特の文体ですので、現代語訳と言ってもかなり読みにくいです。でも、句点がない文体なので忙しなく登場人物が動く様が表現されているので、文体も現代風にしてしまうとだめになっちゃうんだろうなと思います。難しいところ。なお、現代語訳は小説家の松浦理英子(親指Pの人)。

吉原の門前の街に生きる思春期の少年少女の心情が描かれています。少年少女ながら社会的にいろんな立場があると認識し、それでもそれを打ち破ろうとする思い。しかし、多少暴れたって、そんなものは戯れ。世は何ら変わることがなく、定まった道を受け入れるしかない現実を見せつけられる。青春の後味は苦い。

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2024.04.06

『女子高生誘拐飼育事件』

先月の歌会でストックホルム症候群の歌が評に出た。エロい中年男性にとってストックホルム症候群と言えば「完全なる飼育」ではないだろうか。竹中直人と小島聖の映画は衝撃的だった。この映画は1965年に発生した女子高生籠の鳥事件をモチーフとしている。同じ事件をモチーフとした小説があったので、Kindleで開いてみた。

小説の文体に攻撃性を感じる。この文体で、ストーリーの刺々しさを感じる。犯人の人格の描き方も悪意に寄せて書いてあり、被害者の順応とのコントラスタを際立たせる。

犯人も被害者も、最初から破綻した関係と知りながら、終局が来なければいいのにと祈りながら時間を過ごす。ヒヤリとしながら読み進める感情は、こちらも犯人に感情移入してしまっているのだろうか。

著者が犯人の心情、被害者の心情にどれだけ寄って書くことができていたか。文体は荒いが、その荒さゆえ、寄り添い具合は読者に委ねられているのかもしれない。

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2023.11.23

『男と女ー恋愛の落とし前ー』

狂気的な恋愛を描く唯川恵による、女性へのインタビュー集である。恋愛に嵌ってしまう女の本音を聞き出し、唯川恵が辛辣なコメントで追うという構成。男がいかにだらしなく、女がいかに愚かかをインタビューにより描こうとしているのだろう。

唯川恵は後悔する恋愛を求めている気がする。しかし誰も後悔のための恋愛は求めていない。今その時の感情と、よかったと思える日のために時間を過ごしているのだ、唯川恵がコメントでこき下ろしているのは恋愛の一面だという点を忘れてはならない。

登場するインタビュイーである女性たちの人生は、波瀾万丈である。それでも、やはりどこか現実的である。小説のような破滅は望んでいない。現実世界は現実的だと。

この現実的なインタビューを土台に、次なる唯川恵の恋愛小説はどのように道を外してくるか。

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2023.11.18

「コーヒーの科学」

コーヒーは嗜好品なので蘊蓄を語る人は多く、また蘊蓄を記す書籍も多い。しかし、この本はそういう蘊蓄本とは一線を画す。署名に「科学」の字が入っている。本を開いてみると実際に自然科学分野の視点でコーヒーのことが書かれている。アカネ科コーヒーノキの分類や遺伝、コーヒー豆の構造、味覚の感じ方とコーヒーの成分、焙煎におけるコーヒー豆内部の化学変化、抽出における二相分配、そして疫学の話まで。そして、どの分野もけっこう本気で述べているところがすごい。正直な感想を言うと、理系を拗らせている。はっきり言って、たかがコーヒーである。消費者としては、単に好みで飲んでいるだけで、人生がかかっているものでも何でもないのにだ。そんなことは著者も承知の上で、だからこそ本気に取り組んでいるのだろう。そこを楽しむ本である。

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2023.10.09

『作歌のヒント』


闇雲に短歌を詠むのではなく、きちんと入門書を読んで基礎を学ぼうとKindleで買おうと思ったら3年前に購入済みだった。3年間、足踏みをしていた。

永田和宏なりの短歌入門書。気鋭の歌人である河野裕子の側にいながら染まることなく現代短歌の王道を行っている感のある歌人の書く入門書であり、自分が学ぶ方向であると思っている。(とは言え塔には入らなかったが。)

いっぺんに全部は覚えられないが、読者を信じる、説明しすぎない、このあたりをまずは心掛けよう。あと僕に圧倒的に不足しているのは、歌集を読むことだ。アンソロジーではなく歌集を。駄作の重要性が語られている。高名な歌人でも多くは駄作であり、駄作を含めての歌集であると。この辺りの記述を読んで、とにかく詠んで学ぶことに躊躇いをなくした。

今週だ末には歌会にも出席する。とにかく、学ぶ。

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2023.08.18

『木挽町の仇討ち』

直木賞受賞作ということで、読んでみました。

様々な人生を歩んだ者たちが芝居小屋に集まる。そして、芝居小屋の前で繰り広げられる派手な仇討ち。仇討ちを見た芝居小屋で働く者たちに、ただ仇討ちを語せるだけでなく見た者の人生観をも語らせる、その構成が素晴らしい。そして、芝居臭い殺陣を語る木戸役者から導入して読者を引き込み、話者の人生の苦楽をエンタテイメントとして読ませる。そして、どんでん返しの結末の人情劇。ミーハーで読んだ話題作でしたが、よいものを読むことができました。

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2023.07.30

『土門拳 古寺を訪ねて』(斑鳩から奈良へ)(奈良西ノ京から室生へ)

4月の東京都写真美術館での土門拳の展覧会を観て、室生寺が気になっていた。7月15日、東海道新幹線と近鉄特急を乗り継いで室生寺を訪問した。真っ赤な翻波式衣文と黄金の白毫が心に残る金堂の釈迦如来、優しく微笑む弥勒堂の弥勒菩薩、青空に聳え立つ五重塔。土門がフィルムに収めたものを自らの眼で確かめることができた。そして、土門はどのような思いで仏像に対面したのか復習したくなり、一冊を人に借り、一冊を古本で取り寄せて読んだ。

本書は土門のエッセイと写真を文庫4冊に編集したもののうち2冊。聖徳太子の霊や鑑真随行者の仕事に思いを馳せるエッセイとともに、旅先で出会う人との会話も盛り込まれている。特に室生の人々との交流は深かったよう。土門は室生の人々の気持ちも境内写真に収めたのだろう。そんなことを思った、エッセイと写真の文庫本だった。

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『我が友、スミス』

スミスとは筋トレマシンの名前。ジムでのスミスマシンの席取りあたりから物語は始まるが、話はどんどんストイックになっていく。淡々と描かれているので、ストイックさがなんでもないように思う。よく考えてみると、けっこうな異常人。それを思わせないさらっとした書きっぷりが、かえって面白い。

最大限までストイックさを高めておいて、最後のシーンがやってくる。どうして靴を脱いだか。そこに来るまでに溜まりに溜まっていたものは何だったのか。それは、それまでの物語の中のところどころに埋め込まれている。そして、読者もそのことを若干だけ胸に引っかかりながら読み進めてきたはずだ。

競技に、そして人生に何を求めているのか、ふと振り返りたくなる時がある。

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『冬の花火』

「乳房消失」の歌人、中城ふみ子の伝記的小説。東京で遊学し北海道に戻ってエリートと結婚という順風満帆な人生から一転、夫の汚職、離婚、乳癌への罹患と、次々と悪事が重なる人生。転落する環境において、ふみ子は強烈な個性を発揮し、男を翻弄し、これでもかと人生を貪り食う。自らの先が短いと悟って、より生き急いだようだ。失ったもの、失ってしまうものを生きている間に取り返すように。

中城ふみ子の31年間の人生は、濃く、重い人生であったと感じさせる一冊だった。

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2023.06.25

『あの胸が岬のように遠かった』

歌人永田和宏による、妻で歌人の河野裕子の懐古録。永田の幼少期の境遇の説明と、河野との恋愛期間の懐古がメイン。

永田の院試不合格による二人の不安定がクライマックスか。乗り越えたというか、乗り越えられずに荒波を被ってしまったというか、読んでいる分にはずいぶん荒れてすさんだ時期だったように思うし、実際に二人とも辛く苦しい時間を過ごしたはずだ。それでも、河野は「もういちど生まれて来ても、今日まで生きて来たのと同じ青春を選び取ろう」「このようにしか私には生きられなかった」と第一歌集の後書きに語る。苦しさも含めて、彼女を築き上げた青春なんだろう。永田は、その重さまで引き受けて、河野を見送ったのだろうか。

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